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第112回定例会

第112回

GRACOIL Limited 仁賀保 成史氏

開催日

12月2日(火) 19:00 ~ 21:30

開催場所

香港和僑会オフィス(http://www.wa-kyo.org/contact)

参加者数

36名

「なんとかなるさ!」で10年間。香港、大陸で起業、投資。

12月はGRACOIL Ltd.の仁賀保 成史氏を講師にお迎えしました。

当初の「香港、大陸で起業、投資。」から当日のスライドでは「香港、大陸で起業、失敗。」にタイトルを変えて、現在の本業である船舶燃料(バンカー)給油業の成功に至るまでのさまざまな失敗も交えた紆余曲折、大陸ビジネスの表と裏をエピソードたっぷりに語っていただきました。

現在の成功を見れば「香港、大陸で起業、失敗そして最後に成功」が正しいタイトルになるでしょうか。これまでの歩みは起伏に富んだバイタリティあふれるものです。

サウジアラビアの大学への留学の後、新聞社で中近東関係の仕事を担当。その中で石油関係の仕事の情報が舞い込んだのをきっかけに独立。シンガポールで船舶燃料のサプライヤーを設立して軌道に乗せた後、売却。その後香港に拠点を移して、石油関係で中国進出する事を目指します。上海進出時に購入した一軒家の値段が1年で何倍にも高騰するバブルな状況に驚きつつ、石油関係の事業を始められるようになるまでの事業として、家具のOEM工場を立ち上げ。順調に経営を軌道に乗せ、こちらも自分がいなくても経営が回るようにする中で、今度は友人の相談をきっかけに、その当時上海になかった東京青山のような高級美容室の事業を始めます。

美容室事業の立ち上げに際しては、当時の中国では国内産業のため、営業に必要な営業免許の取得は外資には難しく確約出来ないとコンサルに言われ、それならと自分で公証局に行こう思います。美容室の場所を借りる大家のツテも使って、工商局の課長を訪ね、自ら説明したら、なんとか無事に営業免許を取得。この経験を経て得た感想は、「自分の顔を見せて話せば助けてくれるのが上海」。ひとを頼りにしていてもなかなか前には進まないけれども、自分で動いて事情を話せばいろいろ助けてくれる。

もうひとつ同じような例として、コンテナ1本分の引越荷物がビザの関係で、税関で止められた際も、直接自分が税関に出向いて説明した結果、解決したエピソードがありました。

なんとか無事にオープンした上海の高級美容室は、中国の1%の富裕層をターゲットにしていろいろとマーケティングに試行錯誤します。1年間経って駄目だったら止めようという心づもりでいたものの、最初の数カ月は客のない日がいくつもある。フランス人のスタイリストを入れたため、ヨーロッパ人(長頭)とアジア人(短頭)の頭の違いでの失敗などもしながら、転機が訪れたのがオープンして8か月目頃。たまたま女性誌でヘアを手伝った女優からの、出演するドラマの美容(ヘア、メイク、スタイリング)を担当しないかとのオファーでした。撮影現場に店名入りのジャケットで入るなどの工夫でアピールしながら、口コミやネットで徐々に知名度を上げ、日系のグリコやパナソニックの販促キャンペーンやイベントにも関わるようになります。モーターショーやキャラクターメイキングなどのイベントにも多く携わって評判を呼び、店にも多くの客が詰めかけるようになる一方で、人気が出すぎて顧客のコントロールが大変になるという悩みが生じてきました。また日本と上海での言葉の解釈の違いなどもいろいろ勉強されたようです。

さまざまなスターが店を訪れるようになり、順調に店が回るようになってきた中で次に出てきたのが上海初のサンプルプラザ(企業の試供品を会員に提供するショールーム)の事業です。滑り出しこそ順調だったものの、この事業は6か月で頓挫します。仁賀保氏はコンサルとして関わっていた事業でしたが、日本のスポンサー側の資金が回らなくなってしまい閉店となりました。メディア等にも取り上げられ評判になっていただけにもったいない事をしたようです。

仕事で溜まったストレスを解消する手段として、仲間とバンド活動をしていく内に、演奏だけでは飽き足らず、クラブ経営も始めて見たものの、こちらもまた失敗。客の人数は集められたものの、みんなお金を使わないので売上が上がらなかったようです。

その次の失敗は2010年の上海万博出店でした。友人たちと出資し、あれこれ苦労してホットドック店を出したものの、売上があがりません。実は、万博に来る客はほとんどが中国の国営企業や農家から動員された招待客で、会場内でお金を使わないのです。そういう実態が見えてしまったので、1か月で止めてしまいます。

しかし、この失敗がかえって仁賀保氏の本業回帰への本気に火をつけたようです。美容室の富裕層の顧客からのコネも使って、中国石化(SINOPEC)の担当者と連絡し、ちょうど先方も船舶への石油供給のノウハウを持っていなかったものあり、提携する事になります。万博のホットドックでもし成功していたら、この動きはなかったとは、仁賀保氏の弁です。

SINOPECの代理店になると同時に、先方に顧客開拓のための文書を作ってもらって市場の信頼を得たり、与信のやり繰りをしたりしながら、上海、揚子江、香港と拠点を設け、着実に経営を軌道に乗せて、今後は公開企業を目指そうかという事も検討している今日この頃とのことでした。

終わりに会場からのモチベーションの源泉についての質問に答える形で、現在もバンドをやって音楽でストレスを抜いているとの事。バンドでもいろいろと人とのつながりが広がり、また美容室の事業からもメディア関連を中心にいろいろなネットワークが広がったようです。

現在の本業に至るまでのさまざまなエピソードの中から、自ら動く事の大切さと、人とのつながりの有難さを再認識させられた講演でした。

講演後の荻野会長のワンポイント講座は「勘」についてでした。

勘、英語のSixth Sense(第六感)、Intuitionというものが、やはりビジネスにおいて重要ではないか。それをどうやって磨いたらいいのか。最近の激しい為替変動の日々の中で、ある時ふっと思って自分の日本円をドルに換えて、日本の会社でもドルへの為替予約を指示した結果、少なからぬ為替差益をもたらした。その判断がなぜできたのか、なんでそう感じたのか全然説明がつかない。

結局、勘や閃きを磨く唯一の場はActual Practiceではないか。競争うずまく実際の現場に自分を置く、あるいはそれに近い事-新聞や本を読む、あるいは本日の講師のような人と話して、自分だったらどうするのか考え、感じる事によって、どんどん感性が磨かれていくのではないか。

以上のような、仁賀保氏のさまざまな現場での経験をベースにした本日の講演内容にうまくマッチしたワンポイント講座でした。

(文責:香港和僑会、執筆:香港和僑会会員 水谷 康さん)

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